ふるさと納税の「ワンストップ特例制度」は全然ワンストップじゃない!

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今更ですが、皆さんは「ふるさと納税」をしていますか?

「ふるさと納税」は、自分の好きな自治体に寄付をすることで、寄附金額から2,000円を引いた金額が、所得税と住民税から控除される制度です。

さらに各自治体は寄付金を集めるために、還元率20%~50%もの豪華な返礼品を配布してため、仮に2万円寄付した場合、最大で1万円程度の価値の「特産品やサービス」を、2,000円で入手できることになります。

所得税と住民税は黙っていても徴収されるので、2,000円で魅力的な返礼品が手に入るのですからやらない理由はありませんね

ふるさと納税イメージ

ただし、所得税や住民税の還付・控除を受けるためには届出が必須です。この届け出を怠ってしまうと、所得税や住民税が還付・控除されないため大損してしまいます。

この届出には2つの方法があります。一つは確定申告、そしてもう一つが寄付金の「ワンストップ特例制度」という制度です。

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実はこの「ワンストップ特例制度」という制度が曲者で、日本全国の自治体に無駄な業務を増やしている元凶ではないかと思うのです。

目次

所得税や住民税の還付・控除を受けるための届出方法

まずは、所得税や住民税の還付・控除を受けるための届出方法を見てみましょう。前述のとおり、この届出には、確定申告ワンストップ特例制度の、2つの方法があります。

確定申告

確定申告とは、前年1年間(1月1日~12月31日)のすべての所得を計算して、翌年の2月16日~3月15日の間に税務署に税金を納める手続きのことです。

寄附金控除を受けるためには、原則として確定申告を行う必要があります

確定申告書には、寄付金の内訳を入力する欄があり、これを提出すると、税務署から自分が居住する自治体に、他の自治体への寄付に関する情報が共有されます。この情報をもとに、翌年度分の住民税が減額されるというしくみです。(下記の図では省略していますが、納めすぎた所得税があった場合は、その分税務署から還付してもらえます。)

確定申告イメージ
図1 確定申告の流れ

ワンストップ特例制度

「ワンストップ特例制度」とは、確定申告が不要な給与所得者、いわゆるサラリーマンに対して、「ふるさと納税先の自治体」から、「寄付者が居住する自治体」に対して、寄付金額等の情報を共有してくれる制度です。ただし、年間のふるさと納税(寄付)先が5か所を超す場合は、この制度を利用することができないため、確定申告が必須となります。

「ワンストップ特例制度」を利用するためには、「ふるさと納税先の自治体」から郵送される「ワンストップ特例申請書(寄付金額控除に係る申告特例申請書:第五十五号の五様式)」に記入の上、マイナンバーカードの写しとともに、返送する必要があります。複数の自治体にふるさと納税した場合でも、それぞれ個別に返送が必要となります。

ワンストップ特例申請イメージ
図2 ワンストップ特例制度の流れ

なぜ「ワンストップ特例制度」は日本全国の自治体に無駄な業務を増やしている元凶なのか?

次に、ふるさと納税制度を運営する上で、「ふるさと納税先自治体」と、「寄付者が居住する自治体」(以下、「居住自治体」)それぞれのメリット、デメリットを見てみましょう。

ふるさと納税制度を運営上のメリット・デメリット

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この表を見るとよくわかるのですが、ふるさと納税に係る事務作業が「ふるさと納税先自治体」、「居住自治体」双方の自治体に発生しています。更に「ワンストップ特例制度」のデメリットとしては、この制度の利用者が多くなればなるほど、ふるさと納税に係る事務作業は更に膨大なものになるのです。

ふるさと納税に係る膨大な事務作業

以下にそれぞれの自治体に発生する業務を挙げます。

出展:Fuji Xerox ふるさと納税 BPOサービス
出展:Fuji Xerox ふるさと納税 BPOサービス https://www.fujixerox.co.jp/solution/jirei/pdf/yaizu.pdf

「ふるさと納税先自治体」の事務作業

  1. ふるさと納税者への「寄付金受領証明書」の発行・送付
  2. 受領した「ワンストップ特例申請書」のチェック(本人確認)
  3. 寄付者への受領書送付(不備がある場合は通知)
  4. 納税管理システムへのデータ入力(マイナンバー付番)
  5. 寄付者の居住する自治体への「寄附金控除に係る申告特例通知書」の通知
  6. 返礼品の配送指示

ふるさと納税先自治体の業務を一言で言うと、1)寄付者からの情報を受領し、2)受領書、返礼品等を送付、3)「ワンストップ特例制度」申請者の情報を居住自治体に通知する、ということになります。この中でも一番煩雑な業務はマイナンバー情報を受領して本人確認を行う、3)「ワンストップ特例制度」申請者の情報を居住自治体に通知する、でしょう。

「居住自治体」の事務作業

  1. 「ふるさと納税先の自治体」から送付された「寄附金控除に係る申告特例通知書」の受領
  2. システムへのデータ入力
  3. 住民税の控除計算
  4. 住民税税額通知書の作成

対する居住自治体の業務は、1)ふるさと納税先自治体から「寄附金控除に係る申告特例通知書」を受領、2)翌年度分の住民税減額、ということになります。

税収が増える「ふるさと納税先自治体」はともかく、税収は下がるうえに、公共サービスにただ乗りされるなど、「居住自治体」にとってはメリットが全くない上に事務作業が増大するという、泣きっ面に蜂というのが実情でしょう。

寄付者が居住する自治体

更に忘れてはならないのは、各自治体は「ふるさと納税先自治体」であると同時に、「居住自治体」でもあるという点です。つまり、一件の寄付につき、双方の自治体にこれだけの膨大な業務が発生しているのです。 「ワンストップ特例制度」の問題「ワンストップ特例制度」が日本全国の自治体に無駄な業務を増やしている理由

  • 「ワンストップ特例制度」の業務が複雑なため、同制度の利用者が多くなれば、ふるさと納税に係る事務作業は更に膨大なものになる
  • 業務を煩雑にしているのは、マイナンバーによる本人確認
  • 「居住自治体」には何のメリットも無い

これほど煩雑な業務が発生する原因は「マイナンバー法」

なぜ、ふるさと納税制度を運営には、これほどまでに複雑な業務が必要なのでしょうか?

その理由は、本人確認に利用するマイナンバーです。

煩雑なワンストップ特例制度

マイナンバーの運用にはさまざまな制約があるため、寄付者本人から直接マイナンバーカードの写しの郵送が必須になってしまっています。本来ならば、「ふるさと納税」の申込を代行しているECサイト等(ふるさとチョイス、さとふる、楽天ふるさと納税、など)で本人確認ができれば、ふるさと納税の申込の情報と一緒に「本人確認情報」も「ふるさと納税先の自治体」に送ってくれれば、本当の意味でワンストップサービスになるのですが・・・。

マイナンバーの運用の制約上、不必要なまでに複雑化してしまった「ふるさと納税 ワンストップ特例制度」ですが、ふるさと納税の人気がでれば出るほど、自治体の業務負荷が高くなることは必定です。今後、ふるさと納税の利用はどの程度増えて行くのでしょうか?

ふるさと納税の受入額、受入件数はどれだけ増えているのか?

平成20年(2008年)から開始されたふるさと納税ですが、総務書の調べによると、平成28年度のふるさと納税受け入れ額は、2,844.1億円、(寄附)数は、約1,271万件とのことです。

「ふるさと納税の受け入れ額」のグラフを見ると、近年は前年比で2倍近い伸びをみせていることが判ります。爆発的に普及した理由は、平成27年に創設された「ワンストップ特例制度」がきっかけです。

「ワンストップ特例制度」の利用者はどの程度?

それでは、「ワンストップ特例制度」の利用者はどの程度なのでしょうか?「総務省 – ふるさと納税に関する現況調査結果 平成29年7月4日(下記リンク)」によると、平成28年度の時点で「ワンストップ特例制度」の利用者はのべ256万件、利用率は20.19%でした。総務省 – ふるさと納税に関する現況調査結果 平成29年7月4日 (314KB PDF)

平成29年度の「ふるさと納税の受け入れ額」は4,000億円を突破する?

この記事を書いている時点(2018.02.25)では、平成29年度のデータはまだ集計されていませんが、この勢いでは、平成29年度の「ふるさと納税の受け入れ額」は4,000億円を突破するのではないでしょうか。「ふるさと納税の受け入れ額」が増えれば、「ワンストップ特例制度」の利用者も増えるでしょう。

これが何を意味するかというと、自治体業務の負荷が今後も継続的に増大し続けるということです!

アサヒグループホールディング、青山ハッピー研究所調べに(下記リンク)よると、ふるさと納税を実際に行ったことがあるのは、まだ18.2%にしか達していないそうです。このアンケートはWebで行われたものなので、実際の利用率の数字はもう少し小さいかもしれませんが、それでも理論上は、「ふるさと納税」の利用者はあと5倍の伸びしろはあると言えそうです。アンケート結果 – ふるさと納税を利用したことがありますか? アサヒグループホールディングス 青山ハッピー研究所調べ (調査期間:2017年11月29日~12月5日)

自治体の業務はまわっているのか?

さて、このようにふるさと納税に係る業務負荷が年々と増加する状況の中で、自治体の業務はまわっているのでしょうか?
先ほども参照した、「総務省 – ふるさと納税に関する現況調査結果 平成29年7月4日」にふるさと納税の募集や受入等に伴う経費が公開されているのでご紹介します。

ふるさと納税の募集や受入等に伴う経費

区分金額(100万円)
返礼品の調達に係る費用109,081
返礼品の送付に係る費用15,021
広報に係る費用3,114
決済等に係る費用5,159
事務に係る費用、その他16,138
合計148,513
ふるさと納税の募集や受け入れ等に伴う経費(平成28年度)

このデータで着目すべき経費は、「事務に係る費用、その他」です。実に全国で161億円もの費用が「ふるさと納税」の事務作業に消えていることが判ります。総務省 – ふるさと納税に関する現況調査結果 平成29年7月4日 (314KB PDF)

結局ふるさと納税はSI業者を救済することが目的?

これだけ爆発的に「ふるさと納税」の業務が増えると、自治体の業務はまわりません。必然的にアウトソーシングが必須になります。

この事務作業の費用には、システム開発費や、民間企業へのBPO(ビジネスプロセス・プロセス・アウトソーシング)費用が含まれているはずで、数多くのSI会社の公共部門が潤うというおなじみの構図になります。

ふるさと納税がなければ発生しなかった161億円ですが、SI会社を応援するという意味では国策になるのでしょうか?

ふるさと納税「ワンストップ特例制度」とは、誰のためのものか?

結局、ふるさと納税の「ワンストップ特例制度」とは、誰が得する制度なのでしょうか?

寄付者にとって、全然ワンストップになっていない

寄付者にとっては、寄付した(最大5つの)自治体ごと、個別にマイナンバーカードの写しを郵送する必要もあるため、使い勝手がよくありません。

医薬品等の購入額合計1万2000円から控除申請できる、セルフメディケーション制度が平成29年度から導入されたこともあり、これからは確定申告を行う人が増えることが予想されるので、ふるさと納税「ワンストップ特例制度」が形骸化する可能性もあります。

自治体は業務負荷が上がり消耗するだけ

先にご紹介したとおり、ふるさと納税「ワンストップ特例制度」の利用者が増えれば増えるほど、自治体の業務はひっ迫します。

特に、ふるさと納税で税収が激減してしまう大都市の自治体にとっては、まったくメリットがない制度になっています。

返礼品が地域経済の活性化になるならまだしも、中には外国製の掃除機や空気清浄機を配る自治体もある始末です

ちなみに私は、2年前に発売直後だったダイソンのDyson Hot + Cool AM05 ファンヒーター をふるさと納税でゲットしました・・。

現在では、地域で生産していないDysonなどの外国製品を返礼品にすることは禁じられてしまいました。

喜んでいるのは、BPO(ビジネスプロセス・プロセス・アウトソーシング)を受注できるSI業界としか考えられない?

いろいろなところが残念な、ふるさと納税「ワンストップ特例制度」の業務設計を行ったのも、民間のコンサルティング会社なのではないかと想像しています。

結局のところ、この残念なまでに労働生産性を低下させる制度を享受できるのは、SI事業者の公共セクターの皆さんなのではないでしょうか?

本来ならば、ふるさと納税に回った寄付金額が全額税収となるべきにもかかわらず、返礼品の調達・送付、そして今回ご紹介した事務に係る費用など、1485億円もの費用が使われています。もはや、お役所が主導して内需を拡大するために、あえて費用を民間に回していると考える他は、メリットらしいメリットを思いつくことができません。

行政は「ふるさと納税」制度についても、労働生産性向上の観点から業務の見直しをすべきでは?

ふるさと納税の「ワンストップ特例制度」は、無駄な業務を生み出す元凶としか思えない制度だと考えます。最近「働き方改革」のニュースが巷を賑わしていますが、「働き方改革」が目指す「労働生産性を向上させる」という観点からは、逆行した政策に思えます。

「ワンストップ特例制度」の制度には依然多くの無駄があります。特に「事務に係る費用161億円」で懐が潤い高笑いをしているのはSI業者だけ、各自治体の業務は増えるだけで、行政としてのメリットはさほど無いという構図が目に浮かびます。こうして、私たちの税金が無駄に使われているのではないでしょうか?

民間企業に「働き方改革」を求めるのであれば、是非とも行政には、自ら無駄をなくし「働き方改革」を実践する努力をしていただきたいものです。

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